ジクレ版画について

クレ版画は、数ある版画技法の中でも最新の技法です。コンピューター上で処理した画像を大型の専用の機械で、刷り面(紙、キャンバスなど)に極小のノズルでインクを直接噴射して刷る方法です。シルクスクリーンやリトグラフに比べ比較的簡易に、しかも小数での制作が可能なため、最近はこの技法で制作・販売を行う業者がかなり増えてきました。ただし、原理は家庭用のPCプリンターと同じなので、どうしても美術品というよりは、工業品という印象が強いのも確かです。そのためよりよい作品を創るために、ジクレで制作される版画の多くは2次加工を施されていることが多くなってきました。ジクレで刷った作品にもう一度シルクスクリーンやリマーク(版画職人による手彩など)を加え、より作家の意図する表現に近づけるのです。この、ジクレ版画に2次加工を施した版画作品はミックスドメディアと呼ばれています。

クレ版画は、リトグラフやシルクスクリーンなどの他の版画に比べて刷りの工程が簡易なため、専用の機器さえあれば制作が容易なように思われがちですが、版画は美術品なので、画像を処理したり、色味を原画に近づけたり、作家の意図する表現を実現するためには、やはり他の技法と同じように刷り師の熟練した技術なしには制作は大変困難です。版画用印刷機器開発の進歩によりどんなに制作が容易になっても、やはり作家による自己表現としての作品を創る版画という分野においては刷り師の技術は絶対に欠かせないものなのです。つまり、ただ単に最新の機器を導入して制作したジクレ版画より、どんな機器であっても熟練した刷り師のもとで制作されたジクレ版画のほうがよりよいものができるのです。

 

ジクレをベースにしたミックスドメディア

た、ジクレ版画を基礎としたミックスドメディアを制作する場合にも、基本的な版画の制作方法を熟知している刷り師は、その作品の表現方法において的確な提案をすることができます。つまり、版画を熟知した刷り師が制作するミックスドメディアは表現の選択肢が無限に広がっているのです。

えば、画面の強調したい部分にだけシルクスクリーンにより艶のある質感を出すことができます。ジクレはインクをノズルから噴射させるため、仕上がりはマット(光沢のない状態)になります。しかしアクリル・油彩などの作品や、金泥などの光沢ある表現をあえて用いた原画にはジクレのみの版画では作家が意図した表現は実現できません。そこでシルクスクリーンによりバニッシュと呼ばれる透明のインクを画面全体や、あるいは強調したい部分にのせることにより、グロス(光沢のある濡れたような状態)を表現することができます。このたった1工程を加えただけでも出来上がった作品には雲泥の差が生じてきます。その差を生み出すものはまさに「刷り師」と呼ばれる熟練の職人の高い技術と経験なのです。